私たちの実践

私の社員観・利益観・顧客観のすべてを変えたTL人間学

私の会社は、国内24カ所、海外4カ所に拠点を持つ工業用配管資材の専門卸商社です。1925年に曽祖父が創業しました。

私は、久門家に久しぶりに生まれた待望の跡取りとして、祖父母をはじめ家族に溺愛されました。食事の品数も違い、何をしても許され、姉の七段飾りのひな人形やテレビをいたずらで分解しても「研究熱心、偉い」と褒められるほどでした。「久門製作所は竈(かまど)の灰までお前のものだ」と言われて育ちました。

大学卒業後、2年ほど他の会社に勤めてから久門製作所に入社し、29歳のときに名古屋支店に支店長として赴任することになりました。「名古屋で2年ぐらい勤め、その後は東京で成果を上げて、大阪本社に凱旋」と青写真を描いていたのです。しかし、それは、もろくも崩れ去りました。

私が赴任すると、それまで業績のよかった支店はみるみる大幅な赤字に転落し、支店のナンバー2の社員は鬱(うつ)になり、長期欠勤。社員からは「支店長にはついてゆけません」と言われ、まさに崩壊状態になってしまったのです。

試練や困難という言葉を知らなかった私が、この事態にわらをもつかむ気持ちですがったのが、TL人間学(魂の学)でした。TL経営の先輩に相談すると、「君は倉庫番をしたらいい」。実は、名古屋支店には倉庫作業員が不在で、営業マンが交代で倉庫番をしていたのです。

「支店長は上、社員は下」「営業は上、倉庫番は下」──。当然と思っていた考え方が、TL経営で「魂は平等だ」と教えられ、衝撃が走りました。清水の舞台から飛び降りる気持ちで、プライドを捨てて倉庫番をしました。1年、2年……、気がつくと社員が明るく元気になって、支店も活気づき、業績も回復していたのです。「誰が上でも下でもない、チーム名古屋で1つなんだ」──。この名古屋での体験が、私自身の原点となりました。

28歳でTL経営の学びに参加して以来、私は、TL人間学(魂の学)のセミナーをはじめ、参加可能な高橋先生の講演会にはすべて参加してきました。その中で、それまでの私の社員観をはじめ、利益観、顧客観、社長観はすべて変わりました。社員は共に輝く仲間、その仲間のエネルギーのバロメーターが利益、お客様は一緒に成長させていただくパートナー。社員に誇りに思ってもらえる社長をめざそう──。

その後、私は2005年に社長に就任し、16年が経過しました。社員は本当に元気で、このコロナ禍の中でも業績はむしろアップしています。

また、この間、大阪管工機材商業協同組合の理事長に就任するとともに、大学で講演を依頼されるなど、TL人間学(魂の学)をお伝えする機会が増えていることも本当にうれしい限りです。

数年前のことになりますが、税務署から職員研修の講演依頼を頂きました。理由を聞くと、「3代目が社長になるとおかしくなる会社が多いのに、なぜ久門製作所が元気なのか、職員に教えていただきたい」との返答に、驚くと同時に「本当に、TL人間学(魂の学)を知らなかったら、とっくに会社はつぶれていた」と思いました。会社はもちろん、私の人生も社員も、TL人間学(魂の学)によってまったく変わってしまったことを感じています。

久門龍明さん

「お役に立つ」を理念として、配管資材の卸専門業者として96年──。卸売業の振興と産業経済の発展に尽力したことに対し、昨年、大阪市長より第55回市民表彰を受けた

社長を承継して16年、多くの社員に支えられて今があることを実感。不要業種とまで言われる卸売業でありながら、業績も拡大している

社員に対して、以前は「結果を出せ」。今は「成長のチャンスをあげたい」との想いで向かい合う。社員と一緒の出張では、飛行機はエコノミ―、ホテルも一緒で、差はつけない