私たちの実践

患者さんだけでなく、家族や福祉従事者も癒やされ、成長してゆく道

私は、総合病院の地域連携部の副部長と医療ソーシャルワーカーとして、地域連携のはたらきや患者さん、ご家族が安心して治療を継続できるようにサポートをしています。患者さんと出会う中で、時には家族の絆の断絶など、様々な人生の痛みと向き合います。TL人間学(魂の学)を知らなければ、そのような方々にどう関わったらよいかわからず、「家族関係の問題は解決できない」と深く関わることを避け、支援をあきらめていたと思います。

なぜなら、かつての私は、幼い頃に父親から厳しく育てられ、「自分は親から愛されていない」という人間不信を強め、人に心を開くことができなかったからです。その私が高橋先生に出会い、TL人間学(魂の学)を学ぶ中で、父との関わりを振り返る機会がありました。先輩のアドバイスも頂きながら、今まで父が私にしてくれたことが次々に思い出され、「父も私との関わりに悩んでいたんだ」と、父の切なさが心に沁みてきたのです。すると、父に対して頑なに閉ざしていた心が癒やされ、「こんなにも父に愛されていた。今度は、父を愛したい」との強い想いが涙とともにあふれてきました。そして、「関わりを結び直すなんて絶対に無理」と思っていた父との関わりが大きく変わったのです。

その体験の後、認知症初期の高齢女性を担当したことがありました。その方が救急搬送されてきたとき、爪は伸び放題、しばらく入浴もしていない様子で、医師は、息子さんのネグレクト(放置)を疑いました。そのこともあってか、最初の面談で医師の言葉に激怒した息子さんは、話もできない状況になってしまいました。そのことを耳にした私は、「なんて息子だ。許せない」という想いに駆られましたが、以前に高橋先生が「そうなるにはそうなるわけがある」と話されたことを思い出し、息子さんへの先入観をできるだけ排して、本心を聴かせていただこうと関わりました。

すると、実は息子さんは、母親が認知症だとは思えず、医師の診断を受けとめきれなかった様子が見えてきたのです。その姿は、かつて父との関わりに苦しんだ私自身と重なり、「このままではいけない」「この親子に絆を結び直していただきたい」という想いが募り、思わず、「お母さんと以前のような関係に戻れるかもしれませんね」と伝えていました。すると、息子さんは「戻れるんですか!?」と驚き、「私たちは母子家庭で、仲の良い親子だった。できれば、以前の関係に戻りたい」と語り始めたのでした。

その後、息子さんは、仕事が多忙であっても、母親を買い物に連れて行くなど、親子の関わりはまったく変わってしまいました。

父との体験を通して「絆は結び直すことができる」との確信を頂き、この親子との出会いから、絆を結び直す支援をさせていただく歓びを頂いたと思います。そして、家族の絆で苦しんできた私だからこそ、今の仕事を通してできることがあることも教えていただきました。以前の私は、「患者さんやご家族は、支援を求めて偶然にやってきた人」と思っていました。しかし、今は「患者さんやご家族は、支援を通して共に魂の進化と成長を果たすため、必然があって出会った人」であり、そのことを信じて関わり続けることができるようになりました。

「人間は魂存在」というまなざしをもって関わること──。それは福祉従事者にとって非常に大切な視点であり、そのことによって、相手の方が「試練は呼びかけ」として受けとめ、その方の内なる可能性が開かれてゆく。そのことによって、福祉従事者自身も癒やされ、成長してゆくことができると確信しています。

以前、高橋先生より「人間と人間の絆をつなぎたい」という願いがあると伝えられた八木橋さん。今、多くの患者さんとそのご家族の絆を結び直す支援へと向かっている

TL人間学(魂の学)の福祉分野の研修では、進行役なども務める。高齢化社会にあって、「人間は魂存在」と見る福祉の実現に向け、同じ志を持つ仲間と学び合える研修は、八木橋さんにとってかけがえのない場となっている