私たちの実践

ケアマネジャーの仕事を通して、人生の後悔を生き直し、願いを生きる歓びを感じています

昨今、高齢化にともなって認知症が増加しており、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると言われています。

私の事業所でも、認知症に関する相談が増えています。

たとえば、Aさん(80代女性)は、アルツハイマー型認知症と診断され、夜間や早朝の徘徊や被害妄想がありました。ご近所に住む娘さんも、その病状に動揺していました。Aさんは、デイサービスに通所することはできましたが、1カ月も経たないうちに、「(デイサービスで)意地悪をされる」とおっしゃるのです。そのたびに、「認知症だから仕方がない」とあきらめ、デイサービスを替える調整を続けていました。しかし、「これ以上紹介するデイサービスがなくなったらどうしよう」と、私自身、不安になっていたのです。

この不安を見つめてみると、私がケアマネジャーになったばかりの頃、認知症だった利用者の方との苦い体験が、今も心の奥に重苦しさとして横たわっていることがわかりました。そして、「自分にはとても無理──」と、この問題をしっかり引き受けようとしていなかったことに気づき、愕然としました。

ちょうどその頃、当法人主催で「認知症予防カフェ」が始まり(新型コロナ感染拡大の前)、Aさんと娘さんも参加してくださったのです。最初は下を向いていたAさんが、話が進むうちに背筋がピンと伸びてきて、帰る頃には表情も柔らかくなっていました。私は、そのAさんの姿に胸打たれるものがありました。「魂は認知症にならない」という高橋先生のお言葉(『いざというときのベストチョイス!──介護を通して自らと家族が輝く』高橋佳子先生監修 GLA総合本部出版局編 24頁)を思い出し、「Aさんの魂を信じたい!」と、初めて感じた瞬間でした。

その後、まずは娘さんからAさんの人生について聴かせていただきました。Aさんは、戦争でご両親を亡くされ、孤独で厳しい幼少期を過ごされましたが、結婚後は心を込めてお子さんを育て、家庭を大切に守ってこられました。幼い頃、孤独を味わったAさんだったからこそ、「家族を守りたい」という強い願いを持っていらっしゃることが伝わってきました。

その後、Aさんと面談をする中で、「両親、兄弟に縁薄く、夫にも先立たれて不幸な人生だ」と鬱々と嘆かれても、「でも、ご家族のために頑張られましたよね」とその想いを受けとめ、関わり続けました。すると、次第にAさんに笑顔が見られるようになり、「自分はこの年まで生かされている。少しでも娘の役に立ちたい」とおっしゃるようになりました。そして、娘さんの仕事を手伝い始め、家族に感謝の気持ちを伝えるようになったのです。

さらに、主治医のスクリーニングでは、認知症は軽度から中度に進行しているにもかかわらず、日常生活自立度は、Ⅲa(身の回りのことに介助を要する状態)からI(ほぼ自立)に改善し、基本チェックリストの「うつ」の項目が5点満点から0点になりました。

Aさんのケースを通して、その方の人生を丹念にお聞きして、どのような状況であったとしても、まずは自らが心を転換して問題に向き合い、その方が抱いている内なる願いを思い出すご縁となり、共に問題解決に向かうことが、ケアマネジャーの役割であると確信しました。そして、「利用者お1人お1人と出会えることが本当にうれしいし、有難い。この方と出会った必然が必ずある。私も一緒に問題を引き受け、一緒に超えてゆきたい」と、心底思えるようになりました。

今、ケアマネジャーの仕事を通して、私自身が人生の後悔を生き直し、願いを生きる歓びを感じています。

浅草の人通りが多い区画の1階にある事業所では、同法人の経験豊富な医療メンバーとも協力し合い、在宅介護や認知症の方への関わり方など、多様な相談に応じている

ケアマネジャーとして、いつも「介護は呼びかけ」という高橋先生の言葉を心に置いて、年間約100名の方の相談に乗り、相談者と共に問題解決に向かっている